生まれも育ちも亀岡。くらしのすべても亀岡。豊かな自然に包まれた丹波の地で、夢を追いかけて開業したアクアショップあんじゅ。保津川下りや京都サンガF.C.の本拠地として知られる亀岡ですが、アクアショップもどうかお忘れなく。
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◆このまちが好きだから
山々や川などの自然に恵まれた京都府亀岡市。といっても人口は年々増加し、住環境も整ってきました。そんなエリアにあるのがアクアショップあんじゅ。目の前に川が流れる住宅地の一角。JR嵯峨野線・馬堀駅から歩いて10分ちょいという利便性もgood。
ん?これは店舗付き住宅?こんなに真新しいモダンなおうちが、まさかアクアショップだっただなんて。想像していたイメージとはまったく違いました。亀岡にまた新しいスポットの誕生でもあります。
お店のオープンは2023年6月。オープン後ほぼ1年が経ちました。創業そのものは令和元年で、以前は別の場所にお店がありましたが、手狭になってきたためこの場所に去年移転。当初は古い空き家がありましたが、思い切ってスクラップ&ビルトを決行。真新しい洋風建築の建物が誕生したのです。
1階がお店で、2階以上がご自宅。現在奥様と2人の子どもたち、そしてお母様との5人ぐらしです。
聞くと、今のお店のすぐ近くに生まれ育ったおうちがあるらしく、奥様の実家もすぐ近くにあるのだとか。亀岡で生まれ、亀岡で育ち、そして亀岡で結婚し、亀岡で創業。まさに地元愛が強いアクアリスト。こんな人、今までいなかったなあ。
◆いい魚と出会うための努力
目の前を流れる川には、ヌートリアが数多く出没するのだとか。ほかにカワウやカメなどもいて、野趣あふれるロケーション。
川の向こうに見えるのは、かつて通っていた中学校。もちろん奥様も通っていました。中学校のさらに奥にはお子さんたちが通っている小学校があります。
「この場所に移転して、ようやく落ち着いた感じです。アクアショップとしてのスタイルも整いましたし、家族としての生活も落ち着きました」と話すオーナー・森 公彦さん。弱冠33歳。地元愛に満ちあふれた笑顔に、ほんわか&まったり癒されます。
――きっと子どものころから生きものが好きだったんでしょうね。
「自然がいっぱいありますからね。アクアリストになったのも必然だったと思います」
――創業への思いは強かったと?
「そうですね。それまでは地元で自動車の部品などを組み立てる仕事をしていたのですが、やっぱり生きものに関わる仕事をしたくて。妻も背中を押してくれました」
――創業に至ったきっかけは?
「それまでは個人売買のサイトを通じて水草を売っていたんです。ウィローモスを鉛に巻いた状態にしたりして、あのころは水草水槽に夢中でしたから」
――売り上げはそれなりに?
「個人としては結構売れたんですよ(笑)。毎月コンスタントに売れるようになって、これならやっていけそうだと確信したのがきっかけです」
――店内を見渡しても水草の気配がありませんが(笑)
「単価があまり高くないですからね(笑)。今では取り扱うことはなくなりました。やっぱり趣味の延長でやっていたことと商売とでは全然違いますから。その後は生体をメインに取り扱うことにしたんです」
――今も通販が主体?
「どちらかというとそうなんですが、珍しい生体や質のいい個体を仕入れていくためには、実店舗の有無も重要なんです。販売実績だけでなく、ちゃんとした実店舗がないとちゃんとした生体も卸してもらえないですから」
――実店舗って大事なんですね。
「そうなんです。実店舗でちゃんと経営ができているかどうか、当たり前のようですが業界の信用に関わってきて、それが仕入れにも関わってくるからなんです」
――やっぱり違いましたか?
「おかげで、珍しい生体やマニアックな生体も取り扱えるようになりました。通販でありながら、SNSを通じて在庫情報をリアルタイムで発信することで、これはと思う生体はすぐに売れてしまうことが多いです」
――お客さんからのリクエストも少なくないとお聞きしています。
「結構多いですよ。注文を聞いてから1週間程度で入荷するようにしています。たまにそれ以上早く入ることもあります。入荷の連絡をしたら“え、もう入ったんですか!まだお迎えの準備ができてないので、済みませんが少し待ってください”という声をいただくこともあるくらいです(笑)」
――仕入れの妙ですね。
「週の前半は仕入れのために東奔西走することが多いです。外回りをすれば有益な情報も入ってきます。いくら実店舗があるといっても、待っていては何も始まらない気がするので」
――やっぱりフットワークが大事なんですね。
「だからこそ珍しい魚を仕入れられますし、お客様が喜んでくださる質のいい魚をご案内することができるのだと思っています」
――それにしても奥様の反対がなかったのがすごい。
「反対どころか今までずっと応援してくれていました。店と住居が一体化していることで、2人の子どもたちにも寄り添うこともできます。少しは子育てや家事の分担にもつながっているかな、と思っています」
地元に本拠地を置きながら、いい生体探しに東奔西走。そして築いてきた強い人脈とネットワーク。そんな機動力のあるスタイルがお店の強みです。だから通販も成り立つ。仕入れのためにあちこち顔を出してなんぼの世界。そして生まれる信頼の絆。商売の基本はやっぱり「人」なんですね。
◆金魚に自信あり
取材のこの日、ちょっと珍しい魚を店内で見せてもらいました。記事がアップされるころにまだ在庫があるかどうかは微妙だとは思いますが。とりあえずユニークな個体をピックアップしてみました。まずはド迫力のカムファ。メスと別居中ではありますが、れっきとしたお店の看板魚となっています。
カムファはさまざまなシクリッドの掛け合わせてできた品種。オスはあんなに立派な姿なのにメスは体も小さく、逆にシクリッドらしい姿でした。
まずは王道の金魚。金魚は創業当時からお店の主力商品。この日、一番質の高い金魚はこの2匹でした。まずは蝶尾。上見ではチョウチョが羽根を広げたような尾を持つことからこの名がつきました。
江戸錦とランチュウを掛け合わせて作出された桜錦。背ビレがないランチュウ型の体型とつぶらな瞳が可愛いです。
高頭パール。以前どこかの取材で聞いたことがありましたが、じっくり見たのはこれが初めてです。
長物といわれるコメット、朱文金、和金。その中でも今回は朱文金がキワメテ推し。日本っ侘び寂びすら感じる墨が効いた色合いが、キワメテスタッフのお気に入りです。
あ、ウーパールーパー。「似ているけど違うんですよ。これイモリの一種なんです」。真正面から見たらマジでウーパー。これはイベリアトゲイモリといわれるもので、幼生はウーパールーパーの用に外エラがあります。なのでウーパールーパーにしか見えてしまいます。愛嬌のある正面ビューは特に。
おお~、卵がビッシリ。
ちょっと大きくなるとこんな感じ。確かにウーパーって感じではないですね。確かにイモリっぽい。アカハライモリを飼育している人はたくさんいましたが、この種類のイモリは初見参でした。ちなみに、危険を感じると皮膚から肋骨が突出、相手を刺して毒を注入するそうです。
同じイモリのなかまのイベリアトゲイモリ。さっき見たのとは柄が違います。よく見ると仕草や目がとっても可愛い。
◆多彩すぎるフグ
オレンジ色が可愛いテトラオドンミウルス。オレンジ色の綺麗な個体でとても存在感があります。
そしてグリーンベースのパオアベイ。よく見るとおめめがクリクリ。興奮すると体のスポットがオレンジ色に変わるそうです。
さらには黒っぽい顔でこちらをガン見しているテトラオドンミウルス。アフリカのコンゴ川に生息。淡水フグのなかまで、純淡水での飼育が可能だそうです。
さらにさらに、砂利の中に埋もれてテンションダダ下がりにみえるテトラオドンバイレイが。待ち伏せ型なので、底のほうでじっとしていることが多いそうです。驚いたことに、これらはみんなフグ。どれも見たことのない生体ばかりでした。
フグに限らず珍しい魚を何らかのルートで仕入れてくる森さん。やさしい顔して、やることはかなりマニアック。「以前タウナギを死なせて落ち込んでしまわれたお客様に、プロトプテルスを提案させていただいたことがあるんです。すごく喜んでくださって、もしかしたらそれがきっかけで今後古代魚にハマっていかれるのではないかと(笑)」。こんなエピソードはほんの一例。ニーズを把握し顧客満足につなげているのも、普段からお客さんとコミュニケーションができている証拠です。
さっき見たテトラオドンバイレイ同様、砂利にまぎれて見つけにくかったパプアニューギニア淡水カレイ。最大でも10cmくらいにしか成長しない可愛いサイズで、水槽の壁面にへばりついたり壁面から底面へと移動する可愛い姿が印象的でした。
棚越しに見たチャンナオルナティピンニス。ミャンマーに生息しているスネークヘッドなのだそう。
ブルーゼブラタイラントパラダイスフィッシュ。別名タイワンキンギョ。ベタと同じ闘魚の一種。ブルーが効いたきれいな体色でした。
真胎生メダカの子どもたち。
いつ見てもかっこいいバイオレットスネークヘッド。。取材の日は複数のスネークヘッドがいて、それぞれの体色も少しずつ違っていて好みの体色の生体を選びたい人にはぴったりだなと思いました。もっと紹介したかったのですが、今回はここまで。いつも多くの珍魚が入荷されるので、SNSのチェックはぜひこまめに。
◆金魚好きおしどり夫婦
アクアショップはいつもあったかい。スタッフは冬でもほぼほぼ半袖。これ、アクアショップあるある。
この日、取材中で金魚を2匹買った兵庫県西宮市の中川さんご夫妻。ご自宅のマンションには、90㎝水槽5本を筆頭に「数は覚えてない(笑)」くらい多くの60㎝水槽で金魚を飼育しているのだとか。最初は奥様がメインで飼育していたのに、いつの間にかご主人も奥様に影響されて、今やおしどりアクアユーザーになったとさ。
さらに聞いてみると、金魚だけでなくウーパールーパーやポリプテルスなど実に多彩。しかも大半の生体に名前をつけて楽しんでおられるとのこと。アクアのことを話し出したら止まらなくなってきた奥様。この続きはぜひ後日ご自宅で聞かせてくださいね。
◆絶妙すぎる奥様のセンス
「この店にはユーモアがない」と、森さんの奥様が厳しいアドバイス。ということもあって、以前伊勢旅行で買ったという金魚のちょうちんを玄関に吊るしています。
黒いPOP群も奥様のアドバイスから。「最初は白いPOPでやってたんですが、それじゃオシャレじゃないと言われまして(笑)。全部リニューアルしました」。家族間とはいえ、こうして気軽にモノを言える環境も経営には大切なポイント。奥様に拍手喝采を。
低迷するアクアに一石を投じるとしたら?「アクア人口を増やすためには、初心者が興味を持ってくれる環境を整えていかないといけないでしょうね。そのためにも、初心者でも飼育しやすくて繁殖も比較的簡単な生体を提案するよう心がけています。アクアはわくわくするような世界であることをアピールしていきたいと思っています」。
ショップが盛り返していくためには?「若い人たちが主導権を持てるような構図にしていって欲しいですね。色々なしがらみがつきまとう世界でもあるので、若い人たちにまかせて斬新な発想やアイデアを尊重してもらえる業界であって欲しいと思います。多少の失敗があっても目をつむるみたいな、上の人たちにはそんな包容力も必要だと思います」。これ激しく同意。
そういえば、気になっていた店名の由来は?「以前とっても飼っていた保護ネコの名前からとったんです。またアンジュはフランス語で「天使」の意味もあります。そんな理由もあって屋号に決めました」。
あんじゅ→あんじゅう→安住。森さんにとっても家族にとっても、ここは安住の地になることは間違いないでしょう。