ありのままに、自然のままに、とはこういうことをいうのかも知れません。活動の拠点は人里離れた田舎町。扱っているアイテムは植物中心。決して無理をしない営業戦略。まるでアーティストのようなライフスタイルがコンセプト。そんな希少な大阪最北端のアクアショップを訪ねました。
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◆大阪府最北端のアクアショップ
大阪市内から電車とバスを乗り継いで1時間少し。降り立ったバス停からさらに歩くこと15分。目に入ってくる景色は、田んぼと畑と山と川と。何とのんびりしたロケーションなんでしょ(笑)。
こんなところにアクアショップがあるとは、かなりの驚きです。どんなものを扱っているのか、どんなお客さんがくるのか、そしてどんなオーナーなのか。ワクワクドキドキ、興味は尽きません。ここはまぎれもなく大阪府最北端のアクアショップ。たぶん(笑)。車で5分も走ればもう京都府にワープできます。
玄関前にはメダカ販売の表示も。
プラフネ以外に温室設備もあります。
販売用のミジンコも自家生産。このネイチャーな環境には、メダカやミジンコがよく似合います。
ん?ナニコレ珍百景的な肖像物とニアミス。魚のかたちをしたバイク?いきなりシュールなテイスト(笑)。
オーナーはこの人、藤田雅也さん。41歳。意外にも都会的なキャラ。このシチュエーションからはイメージできませんでした。てっきり、長靴を履いて頭にタオルを巻いた感じのオジサンが登場すると妄想していたので(笑)。こりゃ失敬!「このバイクは知り合いが持ってきてくれたんですよ~。アクアショップなんだからモチーフはやっぱり魚でしょということで、こんなラッピングバイクになりました(笑)」。
◆実家でUターン開業
ラッピングバイクで盛り上がったところで店内へ。これまた想像とまったく違いました。どことなくログハウスかカフェのよう。魚より明らかに水草やコケ類が多い気がします。「小さな生態系をインテリアとして提案できる店でありたいと思っています」。ああ、プランツ。「いえ、植物です」。ん?「植物という言葉にこだわりたいんです」。自然の中で命が宿る植物たち。確かにプランツという言い方では、何となく人工チックです。
店のオープンは去年春。それまでは、隣接する兵庫県川西市で店を構えてしましたが、新型コロナの影響もあり「自分としての原点に立ち返りたかったから」と、わかりきっている都心部での競合を避けて当地に。実はこの場所、藤田さんが生まれ育った実家でした。軽自動車なら3台は入る駐車スペースを改造して現在の姿に。てっきり田舎ぐらしに憧れての場所選びだと思っていました。
どうしたんですか、そのTシャツ。「同じようなことをして面白がれる仲間たちの集まりというか、思いつきでつくったというか(笑)」。今ではブログやYouTubeなどのタイトルにも。一度見たら忘れられない水遊秘密club、ネット検索ではしっかり引っかかってきます。静かで自然がいっぱいの大阪府の端っこで、商売を度外視したファーマーな藤田さんのこだわりでもあります。
そういえば、事前に藤田さんを知っておこうと拝見したホームページも、とってもシンプルでした。これからサイトとしてつくり込んでいこうと?「いやあ、自分ではあれで十分だと思っています」。じゃあ別のサイトをつくってネット通販とかでモノを盛んに売っているとか?「いえ、それもやってないです(笑)」。PRのためにSNSをやり込んでいるわけではなく、YouTuberとして収益を見込んでいるわけでもなく。「こんな店に行ってみたい、こんな水草水槽をつくってみたい、と思う人にきて欲しいんだけなんです」。
藤田さんの「チラ見せ戦略」。またの名を放置プレイ(笑)。決して消極的ではなく、そうすることで結果的には良質なお客さんが集まってきます。「特にお子さん連れのお客さんには喜んでいただいています。こんな自然を子どもに見せてやりたかったんですと、店の外でのびのびと遊んでくれています」。
ですよねー、そりゃそうだ。普通「店の外」といったら車がガンガン走っていて危なくてしょうがない。ここでなら絶対大丈夫(笑)。昨今のコロナ禍でどこへも遊びに行けなかった家族が、この豊かな自然の中でめいっぱい遊べたとしたら、感動的ですらあります。
◆生きざまは「自然との共存」
ひきとわ大きい手前の水槽は1800の水草レイアウト水槽。店の中で一番大きい、いわば看板水槽といえるのかも知れません。
ラミーノーズテトラ、ラスボラヘテロモルファ、アノマクロミストーマシー、ハイフェソブリコンメタエコロンビアなどの魚たちがいますが、「どちらかというと水草が主体なので、魚たちは脇役に徹してもらっています」。お互いの環境を越権せず、水草と共存できる魚たち。だからこそ両者とも幸福になる。それはまさしく藤田さんの生き方に通じるような気がします。
こちらは水草販売用の代表水槽。1200のKOTOBUKI製。どの水草も無農薬で栽培し、成長するとカットして販売。そんな水草が鉢に植えられた状態で、店内のあちこちで水槽展示されています。例によって脇役を務めるのは、ランプアイのなかまでもあるアプロケイリティクスマクロフタムルスや、クリアなグリーンがきれいなミクロラスボラブルーネオンなどなど。
「上段の30㎝もKOTOBUKIの水槽ですよ」と藤田さん。気を使ってくださって恐縮です(笑)。聞いてみると、店内では10数本の水槽がKOTOBUKI製でした。「やっぱり丈夫なことが何よりです。透過率がいいといわれるメーカーの水槽もあるんですが、ガラスの硬度がそれほどでもなくて。長い間置展示しておく水槽としては、KOTOBUKIの水槽が扱いやすいんです」。ちなみにガラスの透過率とやらをちょっと比較してみましたが、ほとんど差は感じられませんでした。
一時はハマりにハマったレッドビーシュリンプもちょこっと。あのころはまさにビーシュリバブルでしたね。「サラリーマン時代、仕事をしながらビーシュリの繁殖を手がけていたことがあるんです。環境がよかったのか、おかげで順調に育ってくれました。そういう点でいえば、開業するきっかけをつくってくれたのもビーシュリなので、この子たちには感謝感謝です」。
ひときわ異彩を放っていたのが、水槽イン水槽。金魚が泳ぐ水槽とテラリウムがレイアウトされたコンパクト水槽とが同居。金魚があたかもコケの前を通りすぎていくという、ありえない光景。金魚にとってこれが自然との共存であるなら、これもまた藤田さんの生きざまそのもののような気がしました。
◆良質の材料はすべて地元調達
店内の奥は、どちらかというとテラリウムがメイン。藤田さんが植物とこだわる理由がここにあります。ちょっとしたアトリエ風。
これはコケ玉を使ったコンパクト水槽。コケ玉というと一般的にはお皿などにちょこんと置いて楽しむものだと思っていたので、ちょっと珍しいですね。「ハイゴケを使っている点では、一般的なコケ玉と同じです。ただ、水槽などの密閉型の容器に入れることで湿度がベストに保たれて、ハイゴケもこんなに元気に育つんです」。これもある意味放置プレイ(笑)。
KOTOBUKIのコンパクト水槽にもコケ玉を使ったコケリウムが。「シダ類でコケ玉をつくっています。水槽に入れることで、やっぱりこちらのハイゴケも元気です。成長が早いので、シダ類はトリミングが必要ですが」。まさに水槽ありきのコケ玉。単に見た目だけでなく、微妙な湿気も計算ずくのようです。
聞くところによると、コケ玉に限らずコケなどの植物類の仕入れ先は、地元の盆栽専門店から。「山野草を扱っている園芸のプロがいるんです。品質的にはバッチリですし、その人からしっかり学んできたことを店でも伝えるようにしています。そういう点では、植物に関しては自信があります」。こうしたブレーンに恵まれているのも、この地に根を張る特権。植物にこだわる理由も、何となくわかってきた気がしました。
コケリウムのワークショップも毎月行うなど、イベント参加の機会も多くなってきました。イベントをプロデュースしてくれるのも、ワークショップの会場を提供してくれるのも地元の知人。ブレーンの輪はますます広がっています。もしかしたら、この人たちも水遊秘密clubの一員かも(笑)。
このほか、コケリウムの製作を通じてフィンランド発祥のモルックというボウリングに似たスポーツを盛り上げようと画策。いやいや、話せば長くなるので要点だけ(笑)。何と日本選手権を川西市で開催するなどして、「ノリがよくて面白がってくれる人が多いんです(笑)」。直接商売には結びつきませんが、社会のしがらみもなくこんなことを自由にやれるのはうらやましい限りです。
◆これからもとことん自由
そろそろ取材も佳境に入ったところで来客と遭遇。しかも新婚さん、いらっしゃ~い(笑)。京都祇園で飲食店を経営する河井貴洋さんと奥様の未幸さん。新型コロナの影響で休業を余儀なくされ、マンボウでさらに痛い目に遇ったという2人。以前ドライブでこの地を訪れたところ、未幸さんがすごく気に入って家まで購入してしまったという田舎ぐらし初心者。来店動機は、「魚釣りのエサのつもりで買ったエビなどが残ってしまって可哀相だなと思い、水草やメダカを買いにきました」。
メダカは、白メダカ 、楊貴妃、天女の舞などの種類が。メダカには「みゆき」と名のつく奥様の名前と同じ品種もいるんですよ~。「ホントですかぁ~?なんだかうれしいですぅ~♡」と、これまた初対面にも関わらず今時のギャルっぽくノリがいいったらありゃしない(笑)。
メダカ飼育に関してアドバイスする藤田さんと、熱心に聞く河井さん。確かに初対面同士ではありますが、何か息が合っている感じがしました。もしかしたら、これぞ「来て欲しかったお客」だったのかも知れません。これは後で聞いた話なんてすが、後日インスタグラムでフォローし合ったところ、藤田さんの知り合いとつながっていたそうです。「意外と世間は狭いですね(笑)」。いやいや、「キワメテ!水族館」もしっかりつながらせていただきました。
思い切って1200の水槽買っちゃえば?とけしかたところ、「はあ、置くスペースは十分あるんですけどね」と河井さん。おお~、それなら話が早い(笑)。
とりあえず今回はメダカと水草と用品をお買い上げ。きっとこの若夫婦、お店のリピーターになることでしょう。ユーザー訪問の取材で自宅にお邪魔することがあるかもよ(笑)。コロナでまだまだ大変だとは思いますが、奥様と2人でメダカで癒されてくださいね。
最新ブレーンとの活動は、アクアリウム映像とハンドパン音源と英国紅茶の異色コラボ。その映像を制作したのが藤田さんというのがコラボ商品の目玉です。実は音楽というジャンルにも精通していた藤田さん、「自分がやりたいと思うことが一番です。やりたいことしか考えていません(笑)。もちろん採算は度外視です」。人と人とのつながりこそ財産。場所なんか関係ない。こうして、ちゃんと活動拠点として成り立っているのが何よりの証拠です。
店名のリベル(ラテン語で「自由」の意)そのままに、とことん自由奔放なコンセプト。誰もがうらやむライフスタイル。この地にUターンしてきてよかったと実感せずにはいられません。もしかしたら、都心部から離れたところに生活基盤を置いたことで、今まで見えなかったものが冷静に見られるようになったのかも知れません。今思えば、サラリーマン時代に経験した世の中の理不尽と忖度の世界に決別して正解だったのでしょう。
これから先も自分に正直に生きていこう。大阪最北端の地で、そんなことを教えられた気がしました。