ほぼほぼポツンと一軒家。山々や田畑に囲まれたのどかな環境で、3世代がのんびり暮らすライフスタイルに、アクアがしっかり寄り添っていました。しかも水槽にたっぷり水草を取り込んだネイチャーな世界。魚たちとともに、豊かな緑が繰り広げる水草劇場。まさに癒しのアクアリウムそのものでした。
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◆リフォームを機にアップデート
ご自宅の一室に通されるや否や、目に飛び込んできたのはこの風景。見事にヤラレました(笑)。何ですかこの水槽の数々。言っときますけど、ここは人のおうちです。アクア系イベントの会場でもショップの中でもありません(笑)。
どの角度から見ても圧巻の水草水槽。とてもご自宅とは思えないナイスなアクアビュー。こちらは3世代同居一戸建ての一室。築すでに50年以上経過していますが、シロアリの被害も出始めていたため、2年前にリフォームを計画。どうせリフォームするなら、本格的に水槽を置ける部屋にしてしまおうとアップデートを計画。かくして、待望のアクアルームが誕生しました。
気になるのは床の強度。どう考えても床がたわんでしまいそうだったので床補強をしてもらい、安心を手に入れることができました。水槽を5本置いてもビクともしないということは、シロアリ対策のための工事もバッチリだったという証明でもあります。
気になることがもう1点。水槽5本をまとめて配置されているのではなく、それぞれ単独で置かれているということ。単独だと、配線や水回りなど結構大変だと思うのですが。実はこの部屋、四方すべてに開口部=出入り口のある構造だったのです。昔ながらの続き間のつくり。さすがに水槽のために開口部を塞いでしまうわけにもいかず。おうちの人たちが水槽の間をすり抜けて、となりの部屋に移動したり縁側に出るアクセスになったり。やむを得ず現在の配置になりましたが、その結果すべての水槽が横からでも眺められる独特のシーンを創出。おうちらしからぬアグレッシブな導線を生み出すに至ったのです。家族のみなさんは、おうちにいながらにして365日水族館気分を味わえるとは。あー、うらやましすぎます(笑)。そういえば以前、まだ幼かった子どもたちが「なぜよそのおうちには水槽がないの?」と素朴な疑問を親にぶつけて、家じゅうが大爆笑したこともあったのだとか。何という豪快なエピソード(笑)。
水草水槽だからでしょうか、障子とも違和感なくマッチしている感じです。
◆レッドビーシュリンプの失敗を経て
さてさて、3世代住居でありながら自身の世界観を一部屋にフォースしてしまった張本人が岩崎光児さん。現在は戸建ての木材を工務店に納める地元の材木店に勤務し、木材をプレカットする仕事に就いています。20代のころ大阪で暮らしていた時期もありましたが、いずれ必ずUターンして帰ってこようと思っていたほど、この環境がお気に入りです。今や4児のパパ。自称・子だくさんアクアリスト(笑)。
――自然に囲まれた素敵な場所ですね。
「子どものころは山で遊んだり川や田んぼで生きものを採ってきたり。もっぱら屋外が格好の遊び場でした」
――アクアとの出会いも子どものころ?
「グッピーを飼っていたことがあります。小学生のころ、母親からのすすめがあって飼いました」
――グッピーがアクアのきっかけでしたか。
「その後大人になってから、以前いた職場でシュリンプを飼育していた同僚がいたんです。面白そうだなとは思っていた時、レッドビーシュリンプを飼ってみないか?と誘われました」
――ああ、シュリンプが爆発的にヒットしたあのころですね。
「そうです。最初はとっても面白かったんですが、思っていた以上になかなかうまくいかなかったんです」
――何か原因でもあったのでしょうか。
「一番の原因は薬品でした。特に農薬。自宅すぐ横が田んぼや畑だったことで、農薬散布は当たり前だったんです。その影響を受けてしまったんです」
――人間には影響がなくてもシュリンプにとってはダメージが強かったんですね。
「ほんの微量であっても、飼育水に残っているとダメだったんです。それだけでなくレッドビーシュリンプは温度変化にも敏感でした。色々試してみたんですが、やっぱりうまくいかなくて。可哀相なことをしてしまいました」
――ビーシュリンプを飼うより水草のほうがはるかに難しいと思うんですが。
「ビーシュリンプを飼育した時、水槽の中が寂しすぎたので水草を入れてみたんです。すると、大した失敗もなく育ってくれました。自分でも意外でした。以後、次第に関心は水草へ移行していったんです。水草には綺麗な種類がたくさんあり、気がついたらすっかりハマっていました」
――とはいえ、水草ならではの難しさもあったと思いますが。
「水草は大別して陰性・有茎の2タイプがあり、陰性水草だと光が少なめでもCO2がなくても育つのですが、有茎水草だとそうはいきません。光もCO2もしっかり必要で、底砂からの養分も必要です。おまけに、2タイプの水草は成長のスピードも全く違います。そのことをよくわかっていなくて同居させてしまい結局レイアウトが上手くいかず水草に負担がかかり、その結果水草が溶けてしまった失敗もありました。今思えば、ビーシュリンプも水草も難しい世界だったんだなあとつくづく感じました。ハマってしまった以上、もう引き返せませんが(笑)」
失敗続きのシュリンプ飼育から一転、水草水槽に活路を見出した岩崎さん。今では、陰性・有茎両タイプの水草にロマンを求めて、各種SNSでも情報発信を続けています。
◆1200水槽が4本も
真正面にある水槽は、意外と奥行がありサイズは60×45㎝。まるで森のようにすくすく育った赤色の葉がアクセントとして印象的です。
この水槽ではピンナティフィダを育成。アカヒレやサイアミーズフライングフォックスが同居し、水草の間を悠々と泳いでいます。ピンナティフィダのほかには、テネルスやヘアーグラスなども生育中。
「わずか10本からスタートさせた水草なんですが、短時間でどんどん育っていくんですよ(笑)。なので、手頃な長さになったらピンチカットします」。ピンチカットしたピンナティフィダは植え直したあともどんどん育っていくので、質のいいものはネットオークションに出品することも。
ふとライトを見ると、KOTOBUKIのフラットLEDが3本。「発売された当初に買ったものなんですが、スリムなボディながら光量がたっぷりあって、有茎タイプの水草がよく育ちました」と絶賛。
このほか200Wのセーフティーヒーターや、水草水槽に大敵な油膜発生を除去する「ユマクリア」など、KOTOBUKIの各種パーツが水草生育に一役買っていました。
この水槽では、中型のブセファランドラがベストコンディション。陰性水草の代表選手であり岩崎さんお気に入りでもあるボルビティスを中心に、アヌビアスナナやミクロソリウムなども時間をかけてゆっくり育っています。このほか、前景はヘアーグラスショート、奥にはロタラハラが見え隠れしています。
「この水槽は近々リセットしようと思ってるんですよ」。え、こんなにきれいなのに?岩崎さんによると、一部のロタラハラが伸び過ぎてレイアウトが崩れてしまっているとのこと。赤くて可愛いと思うんですけど。と、周りがとやかく言ってもしょうがありません(笑)。そこには、岩崎さん独自のこだわりがあるようです。
少しわかりづらいですが、水草いっぱいの中少しの空間に見え隠れするのは、ファイヤーテトラやチェリーバルブ、サイアミーズフライングフォックスなど。
おお、こんなところにもKOTOBUKI製品が。水槽台には、外部式フィルターのパワーボックスが4本格納されていました。「パワーボックスは、ろ材がたくさん入れられるのでコストパフォーマンスがいいんです」と絶賛でした。
◆イチオシはボルビティス
こちらの水槽も120×45㎝。岩崎さんイチオシのボルビティスが水面から元気に顔を出しています。「照明に近づきすぎて葉焼けを起こしてしまってるんです。照明を遠ざければ済むものの、そうすると水草が光量不足で育たなくなるので難しいところです」と、岩崎さんのジレンマは尽きません。
さまざまなサイズのブセファランドラとボルビティスとミクロソリウムが同居。水草水槽にベストマッチで丈夫なプンティウスが、ひときわ印象的な赤色のナイスバディで泳いでいます。さっきから感じていたんですが、どの水槽にいる魚も比較的ゆったりとしたスピードで泳いでいるような。「環境がそうさせるのだと思います。水草も同様。早く育てようとしてあせると、ロクなことがありません(笑)」。ありのままに、自然のままに、が岩崎さん流。まさに「癒しのアクアライフ」。岩崎さんの個人ブログのタイトル通りの世界が確かにありました。
これもブセ。あれもブセ。と岩崎さん、何かにとりつかれたように連呼の嵐(笑)。通称ブセ・ブセファランドラは丈夫で底砂の種類も選ばず、CO2の添加がなくても育ちます。そして水上・水中どちらでも育ち、水中で花を咲かせます。
種類も豊富で、葉脈がしっかりして少しキラキラしたジュエルオーキッドにも似た品種も。このほか、水草なのに葉脈がしっかり見えるタイプのブセもあります。
お、こんなところにベタが。「あ、言い忘れてました(笑)。実はベタを繁殖させていたこともあったんですよ」。え、それは聞いてなかった(笑)。結局はやっぱり水草のほうにシフトして、ベタ飼育はジ・エンド。その時の名残りが今も数匹。飼育には向き不向きがありますからね~。
この水槽台は岩崎さん自作。材木店に勤めている岩崎さんにとっては、いとも簡単なことなのかも知れません。
「この水槽が一番のお気に入りなんです」とうれしそうに話してくれたのは、KOTOBUKI製の120×45㎝フレーム水槽。しかしながら、これぞ水草水槽といった感じ。魚たちの隠れ場所もしっかり確保されつつ、魚たちの泳ぐ姿をじっくり楽しめるという、オーラ全開の水槽です。
陰性水草で統一され、緑色寄りのピンナティフィダが植えられています。しっかり遊泳空間が確保された水槽で、ゴールデンアカヒレやカージナルテトラやプンティウス、そして中型のコンゴテトラや、水槽のお掃除屋さんとして知られるヤマトヌマエビも。「ヤマトヌマエビは臆病で、自分より大きな魚がいると怖くて隠れてしまいがちですよね。なので、ヤマトヌマエビが安心して仕事ができるよう、大きな魚とは混泳させないようにしているんです」。サイズ的にはコンゴテトラあたりが限界かも知れません。
お気に入りの水槽だけに、メンテはまめに。思い入れもひとしおのようです。
もしかしたら秘密兵器?最初、スマホを放り込んじゃった!と思ってしまいました(笑)。「色々市販品はあるんですが、コケを取るにはこれが一番使い勝手がいいんです」と、既製品のアクリル板を使った自家製スクレイパーでコケ掃除。
最後にご紹介する120×45㎝フレーム水槽もKOTOBUKI製。前景の水草がしっかり育っていて、しかもピンナティフィダがランナーをしっかり伸ばしているため、飼育水がいかにいいコンディションで保たれているかが一目瞭然。泳いでいるのはファイヤーテトラやチェリーバルブやグリーンネオンテトラなど。そしてヤマトヌマエビがコケとりなどしっかり仕事をしているようです。
自然観が足りなくてコンセプト不足とお悩み中(笑)。いやいや、全然いいと思うんですけどね~。この水槽は、ミクロソリウム(右側)、とピンナティフィダ(左側)がメインパフォーマンス。
「フレーム水槽には枠があるため水草には不向きだという人もいますが、KOTOBUKIの水槽はガラス自体がクリアなので気になりません。むしろ丈夫であることのほうが大事だと思っています」。サイズが120㎝ともなれば、確かに気になるレベルではないかも知れません。
アクアシーンの基礎を築いている計5本の水槽のうち、4本が120×45㎝。さすがにこのサイズが4本も揃うと圧巻です。「初心者は小さい水槽が扱いやすいと思いがちですが、水質管理などの点では大きいサイズのほうがやりやすいんです。これはやってみないとわからないことかも知れませんが、結局メンテも楽になり大きな水槽にしておいてよかったと思っています」。
◆仏間がバックヤード?
驚くなかれ、バックヤードはふすま一枚隔てた仏間でした。容量100ℓのポリタンクには、ヒーターで水温が管理された汲み置き水が堂々と。
かつてはビーシュリのおうちだったのでしょうか。無造作に積み上げられたアクア遺産。使わなくなった水槽って、確かに置き場所に困りますよね。
おやまあ、こんなところにベルツノガエルも。置き水からカエルまで実に多彩な仏間ですが、ご先祖様からバチがあたりませんように(笑)。
リフォーム後の断熱効果により、室内はほぼ20℃と安定。これによって水槽個々のヒーターへの負担を軽減しています。また、たとえ陰性水草でもCO2の添加と明るい照明で育つスピードも変わってくるとのこと。「この部屋だと外からの余計な光も入らず、結果的にはラッキーでした」。
「この場所にいるのが一番長いかも」と言うノートパソコンやパソコンモニターが置かれた岩崎さんの「定位置」。ブログやSNSの発信基地でもあります。家族が集まるリビングとは部屋続きなので、決して岩崎さんだけが引きこもっているわけではありません(笑)。
◆5本の水槽の「真実」
――水草水槽を維持していくために心がけていることは?
「足し水や換水をこまめにするように意識しています。立ち上げ初期から水草をたくさん植えることがポイントです。整った環境をつくるというより、水草が環境を整えてくれます」
――照明を使う頻度については?
「できるだけたっぷり当てるようにしていますが、当てすぎるとよくないので短時間で集中して行うほうがいいと思います。ちなみに自分の場合は、15:00〜22:00のみに限定しています。また、水草と生体の量のバランスについても注意しています。なので、水草に対して生体はどちらかというと少なめにしています。もちろんエサのやりすぎにも注意しています」
――すべての環境づくりは水草中心なんですね。
「せっかく環境が整った水槽であっても、新しい水草を入れるとコンディションが落ちてしまう時があります。でも決してあわてることなく、水草が水槽の環境に慣れてくれるまでじっくり待つようにしています。期間は約2〜3週間。少し長いようにも思いますが、期間中は足し水や換水するだけで大丈夫です。水草というのは、ちゃんと環境に合わせてくれますから」
――何事もやりすぎはよくない(笑)
「できるだけ自然に逆らわないことがベストなのかも知れません。添加剤なども使いすぎると過保護になって、結局水草本来が持つ力を発揮できなくなってしまいますから。極端に言えば、ほったらかしにしておくのも大事なのではないでしょうか。時にやさしく、時に厳しく。もしかしたら子育てに似ているかも知れませんね(笑)」
4人兄弟の末っ子として、いい意味で自由奔放に育ってきた岩崎さん。最後のメッセージには説得力があります。
そして今、4人の子どもたちの父親として子育てに大奮闘。子育てをしながらの「水草育て」。これぞ、子だくさんアクアリストたる所以にほかなりません。
ここからの眺めが最高という岩崎さん、4月29日に5人目が誕生しました。よくよく考えてみれば、水槽もちょうど5本。お子さんの数だけ水槽があるのだとしたら、この先6人目=6本目も夢ではなかったりして(笑)。