思わぬことがきっかけで、ミイラとりがミイラになった岡山市在住の苔テラリウムユーザー・こけまろさん(仮名)。時間を見つけては、新たなテーマで作品づくりに勤しんでいます。最近では苔以外の植物にも興味津々。と関心していたら、またもやミイラとりの伝説が(笑)。んー、こんな苔テラリウムユーザー、見たことない(笑)。
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◆まさかのミイラとり体験part2
2年前、すぐ近くのお寺で拾ってきたドングリを植えてみたら、株立ち(茎の根元から数本の茎が立ち上がっている状態)して3本の茎が伸びています。ドングリからこんな株立ちが見られるとは。順調に育った理由はわかりませんが、もしかしたら苔やドングリにとって、こけまろさん宅は類まれなる成育環境に恵まれているからかも知れません。
ドングリを拾ってきたのは、車で10分ほど走ったところにある曹源寺。苔を随所で見ることができ、アラハシラガゴケ、コバノチョウチンゴケ、コツボゴケ、シノブゴケ、ゼニゴケ、スギゴケ、ハイゴケなど種類も豊富です。特に雨上がりなどに観察すると、まるで緑のじゅうたんのように美しい姿を見せるのだそうです。
苔もそうですが、今の季節にはドングリもたくさん。
ということで曹源寺に同行してくれたこけまろさん、紅葉狩りもそこそこに苔にまつわるとんでもないエピソードが噴出(笑)。「家の芝生で悩んでいた同じころに、週に1回ここに通っていたことがあるんです。集中力を高めようと、座禅を30分間やるために」。これがまたまた苔との縁に結びつくとは、お釈迦様でも気がつかなかったでしょう(笑)。
「お寺に通っているうちに、境内の苔がだんだん気になってきたんです。こうやって見ると、苔もなかなかいいものだなあ、と」。あれほど邪険に思っていた苔が、次第に愛しくなり始めてきたこけまろさん。言っときますけど、これが2度目ですからね(笑)。というわけで、またしてもミイラとりがミイラになったという一部始終。こけまろさん、やっぱり何か持っています(笑)。
週に1度、お寺で座禅を組むことで身についた集中力。本来は仕事のために養おうとした集中力でしたが、結果的には苔テラリウムに取り組む時のメンタル面にも生かされました。自宅庭の芝生では科学的に。そしてお寺の修行では精神的に(笑)。
◆熱帯植物にも興味
「備前焼には水の浄化作用があるといわれているんですよ」と奥様。それは初耳でした。岡山が生んだ地元の伝統工芸でもある備前焼。それを作品づくりに取り入れることも珍しくありません。小さな苔テラリウム。ウサギゴケが元気よく小さな花を咲かせているのも、浄化作用のおかげかも知れません。独学で始めた苔テラリウムですが、以前と違って今はすっかり苔の命を守る側に(笑)。弱点を知ることは、強さを知ることでもあります。
備前焼とコウヤノマンネングサのコラボレーション。すき間部分には、市販の活着材を使って埋め、丁寧にアラハシラガゴケを植え付けました。ちなみに容器は某大手家具チェーン店で購入。苔に熱中し始めてからというものの、「どこへ外出しても、苔に使えるものはないかなと物色する時間が増えました(笑)」。
そういえば、さっきから気になっていた大きな水槽。これってもしかしたらKOTOBUKI?「ああ、そうですそうです。すっかり忘れてました(笑)」。40×40×60㎝の水槽には、熱帯植物が投入されています。「植物の成長を予測して、ある程度高さのある水槽が欲しくて探していたら、この水槽に出会いました」。
模様の美しさに惚れ込んだアグラオネマとジュエルオーキット。高かったでしょ?「高かったです(笑)」。また、アグラオネマは一度ダメになったこともありましたが、開き直って枯れた部分を切ってみたら横から新しい茎が伸びてきて奇跡の復活。今は茎をさして増やすことができるようになったそうです。
こんなところにも作品がありました。さてここはどこでしょう(笑)?実は家族しか使わない2階のトイレ。かつてアクアで使用していた水槽が、今は苔たちの棲み家となっています。
こけまろさんが、毎朝一人きりになれる至福の時間(笑)。そんな時でさえ、苔と一緒。息子さんが以前つくったプラモデルを、シダ類が引き立てるという独自の演出。森に置き去りにされたガンタンクが、少しずつ苔むしていく様子をリアルに表現しています。
リビングの大型テレビ横に置かれたパルダリウムっぽいKOTOBUKIの15㎝水槽。トリミングした苔はもちろん廃棄せずそのまま下に放置。「岩にまでたどり着いたら活着してくれるまで気長に待ちます。しっかり活着したら岩を移動させてこんなふうになりました」。ここまでくれば、苔との信頼関係さえ感じずにはいられません。苔条約成立(笑)。
◆苔を扱うことそのものが修行
以前は、苔玉に興味を持った奥様をサポートすべく取り組んだことも。「どうしてもうまくいかなくて、すぐにダメになるんですよ」とあきらめかけていた奥さんでしたが、こけまろさんがある方法を独自開発。生花用のオアシスに一本一本苔を植え付けることを試してみた結果、「ダメにならない苔玉」をつくることができました。
一見簡単そうに見えて、実は苔を一本一本植えないといけない苔テラリウム。根気のいる作業です。時間がすぎるのもあっという間、肩こりも少々(笑)。知識や経験だけではない、メンタルの強さも必要かも知れません。「作品づくりそのものが修行ですよね(笑)」。
3年前、ふとしたきっかけで地元のハンドメイド雑貨店と知り合いになり、以後ショップに置いてもらったり、イベントにも出店依頼がくるようになりました。またSNSを通じて、「苔仲間」も増えました。意外なのが、海外ユーザーからの問い合わせが多いこと。「なぜなんでしょうね、国内よりも多いです。苔文化が世界中に広がってくれたらうれしいです」。
苔がうまく育たない時は、苔の種類ごとの湿度・土・光のどれが原因なのかを考えることから始めます。色々試していると、だんだん原因もわかるようになってきます。何より、苔の持つ本来の力を信じることも大事だと。いったんダメになっても、決してあきらめることはありません。それが苔だから。「とはいっても、管理するよりはやっぱりつくるほうが楽しいですけどね(笑)」。
テレビ番組「人生の楽園」に登場する人のような生活を送りたいと夢を語ってくれたこけまろさん。「たとえば、苔農家になってみたいと思いますし、キャンピングカーで全国を回って苔テラリウムを広めてみたいとも思っています」。あまり商売気のない、こけまろさんらしい将来展望。有言実行となるよう信じています(笑)。
2度も経験した「ミイラ伝説」。2度あることは3度あるといわれますが、この先果たして?そんなとりとめのない予感に向けて、ひとまずメリークリスマス(笑)!
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【年末のごあいさつ】
「キワメテ!水族館」は、今回が今年のラスト記事となりました。コロナ禍で取材がままならい時もありましたが、ようやく年が越せそうです。今年も1年間ご愛読いただき、ありがとうございました。どうかよい年をお迎えください。