かつては「練馬大根」の産地として知られていた東京都練馬区。アクアリウムプロショップViViD(ビビッド)は、環八通りから少し北西へ入ったところの閑静な住宅街に。老舗中の老舗。オーナーは蒔田匡純さん。いわずと知れた、泣く子も黙る大型店舗です。店内は撮影厳禁のほか、店内を走り回らない・水槽を叩かないなどのマナー順守も徹底。思わず背筋が伸びるアクアショップへいらっしゃいませ。
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◆環八通りにほど近い都内最大級店
東京都道311号線・本寿院入口交差点。地下鉄有楽町線・平和台駅から歩いても6分という地の利のよさ。赤羽方面からくると、道沿いのコンビニ駐車場付近に掲げられている超ビッグサイズな看板が目に飛び込んできます。描かれているのは、燃えるような真っ赤なアロワナ。しかも、情報の発信元はアクアリウムショップではなく「熱帯魚屋」と。言いたいことをシンプルでストレートにアピールする看板って、そうそうあるものではありません。そんなストレートなパフォーマンスにこそ、ショップとしての自信がうかがえます。
背景の建物と比べても、看板がいかに大きいかおわかりいただけるかと。決してコンビニでアロワナが買えるわけではないので、お間違えなきように(笑)
環八通りから少し入ると、そこはもう閑静な住宅街。昔このあたりは田畑が多く、かの「練馬大根」の産地でもあったそうです。
アクアショップというより、自動車関連のプロショップか夜な夜なロックバンドが集まるライブハウスのようなテイストがユニークです。店名表記も英文字だったりひらがなだったり、もうやりたい放題(笑)
開業は平成4年。以後28年間、アクア一筋。しかも、オーナーの蒔田さんが一代で築き上げてきました。平成4年といえば、アクアのバブルが到来する2~3年前。当時から、先見の明があったに違いありません。「いや、そんなものありませんよ。ただ好きでやってきただけですから」とサラリ。
看板を見ると、小動物以外はだいたいあります。これはもう総合ペットショップといっても大げさではありません。珍魚や希少魚といった興味深い記述のほか、右側の看板には英語表記も。外国人観光客が買っていくケースも多いのでしょう。
この場所に移ってきて15年。それまでの広さから5倍にスケールアップ。今では都内最大級のアクアショップとまでいわれるようになりました。ここ以外にも都内中野区に中野ブロードウェイ店があります。
おお、いきなり威嚇射撃(笑)。いやいや、これは当然です。近ごろマナーがイケてない人が多すぎますから。無断でスマホでパシャパシャやったり、ネットとどっちが安いかリサーチするためだけにやってくる輩がいたり。いつもは厳戒態勢が敷かれているお店ですが(笑)、今回に限りみなさんに店内をご覧いただきますのでお楽しみに。
◆セクシータレントがアナタを待っている
入ってすぐのところには、各種サイズ水槽やセール品、水草の数々が所狭しと。よく見ると2階もあります。1階のこの奥には生体中心の売り場が、2階には水槽や用品などの売り場があります。
2階へ上がる階段の途中から見下ろすとこんな感じ。壁際が金魚コーナーで、手前にセール中の水槽や小物、そしてなぜかセクシータレントのポスターとサイン色紙も。手前のボクちゃん、そっちのほうに視線が向いてるような気がするんですが(笑)
最近すっかり増えすぎた感のあるミドリガメ。近い将来、特定外来種に指定されて輸入が難しくなってしまう可能性も。たかがカメ、されどカメ。アクアリストとして、いかなる場合でも生態系を乱してはなりません。
カメといえば、「これ、オススメですよ~」とレザーバックマスクタートル(カブトニオイガメ)のいる水槽を指さして話してくれたのは、スタッフの佐藤貴之さん。アルバイトから始まって、今や社員として15年。彼を頼って来店するお客さんも多く、アクアに関する豊富な知識とノウハウを持ち、蒔田オーナーからの信頼も絶大。
さてさてこのカメはというと、両手をヒラヒラさせて水槽内を泳ぎ回る「可愛いプチガメです」(佐藤さん)。主にアメリカ・ニューオリンズ周辺などに生息し、全長は10㎝足らず。水棲傾向が強いので、特にライトに気を使ったりする必要もありません。これならコンパクト水槽でも飼育は十分可能です。
続いて佐藤さんのオススメは、やっぱりメダカ。「品種が多く値段もお手頃。これから秋口にかけて飼育が楽しめますし、初心者の人でもわりと手軽に飼えると思います」。生きものが大好きで、子どものころはずっと網を持って野山を走り回っていたという佐藤さん。「やっぱり生きものを愛してくれる人は好きです!」と、アクアスピリットを示してくれました。
◆小型魚から大型魚までフルラインナップ
さらに季節的にオススメの魚を紹介してもらいました。これはアピストの中でも人気のあるアピスト アカシジ スーパーレッド。モノがいいことは、かなり気合の入ったPOPを見てもわかります。極上!
尾びれの少し手前にポチッとアクセントのあるドレイプ フィンバルブ。インドを中心に生息。温和な性格のため、アピストとの混泳もOK。エサに気をつけて飼い込んでいくと、どんどん体色がきれいになってくるので、飼育の醍醐味が味わえます。
こちらはミユキフルボディ。いわずと知れたミユキメダカの代表的品種ですが、交配時にフルボディになりやすいものとなりにくいものがあるそうです。とはいえ、鉄火面や面被り、兜などの異名を持つフルボディは、メダカの交配を楽しむのにふさわしい魚です。メダカ飼育は、キャリアや年齢に関係なく手軽に楽しめるというのが魅力です。
この水槽にはレッドフェイスタキシードや琥珀三色透明鱗、三色錦などが超混泳。どの子も、泳ぎが得意すぎるのか混泳が楽しくて仕方ないのか、なかなかカメラマンのいうことを聞いてくれません(笑)。手頃なサイズの各種メダカをひとつの水槽で飼育するというのは、華やかさがあっていいですね。
こちらはベタの一種・ベタ アルビマギナータのメス。ボルネオ島などインドネシアなどに分布。体長に比べて目が大きいのが特徴で、ちょっとベタらしくないフェイスマスク。マウスブリーダータイプで、ペアで飼育すると独自の子育てシーンがみられるかも。オス?例によってカメラではキャッチできませんでした(泣)。それだけ元気で状態のいい魚が揃っているからにほかなりません。
そして、忘れてはならないのがアロワナ。だって、あれほどデカデカと看板に描かれてるのだから、今はいませんとは言わせません(笑)。大型水槽でゆうゆう泳ぐのは、アジアアロワナの血紅龍(スーパーレッドアロワナ)。いやあ、漢字表記だとオリエンタルでかっこいい。看板に描かれていた真っ赤なアロワナ、これがモデルだったのです。
でも残念ながらこれは売り物ではありません。「アロワナの売れ行きには波があるんですよ。バブルのころはアロワナと120㎝水槽がセットで売れたこともありましたが、今は趣向自体が小型化してきているので難しいですね」。
それでも、たまにアロワナだけを求めて来店するお客さんもいるそうで。「ここへくればアロワナがいる、と聞いてこられたお客さんがいるんです。最初は1~2匹買っていかれましたが、そのうち何度も来店してくださり何匹も何匹も(笑)。水槽も結局10本近く買っていただきました」。バブルでなくても、必要とするお客さんはいるものです。大衆ウケでいくかマニアに特化するか、難しい判断です。ちなみに、こうした人のために今も注文があれば幼魚を仕入れられるノウハウがありますのでご安心を。看板に偽りありってことはありません(笑)
今は使われていない一番奥のスペースにも、アロワナが大量発生(笑)。すっごい迫力!4mという巨大水槽はメガ級ですが、バシャンバシャンと泳ぐアロワナの勢いもメガ級です。
小型魚から大型魚まで、まさにオールマイティ。これだけの魚を揃えようと思えば、商売を度外視しないとなかなか難しいはず。好きなことに熱中しつつ、商売につなげていった蒔田オーナーの信念と意志の強さをかいま見た思いでした。
特筆すべき販売戦略は?「冷やかしはお断り。それだけですよ(笑)」と蒔田オーナーがまたまたピシャリ。アクアが好きすぎて全財産(かどうかわかりませんが)をつぎ込んで開店にこぎつけた戦国武将まがいのパワー。築き上げてきた蒔田城は不変です。
◆メーカー別ではなく用途別陳列
2階は水槽および用品コーナー。KOTOBUKIの水槽、もしかしたら全シリーズ在庫があるのでは?と思ってしまうほど豊富です。コンパクト水槽から120㎝水槽、果ては水槽用台に至るまで、これだけの数の水槽を揃えているのも大型店ならでは。
「KOTOBUKIの水槽は丈夫です。それにおしゃれだし。特にフレームレス水槽は小型魚用に人気がありますよ。今はどうしてもコンパクト水槽が売れる傾向にありますが」(佐藤さん)。見渡してみると、同じKOTOBUKIの水槽があちこちに分散展示されています。どうせなら、メーカーごとにかためておけばいいのに。「どんな魚を飼いたいのか、そのためにはどんな水槽や用品を揃えないといけないのか、お客さんにすぐにわかるようにしているからなんです」。なるほど、用途別というカテゴリー重視。あくまでユーザー目線。
発売以来、「FLY MIX」の売れ行きも好調なのだとか。特に、今まで使っていたエサの食いつきがよくないという声があった場合は、迷わずFLY MIXを勧めているそうです。「うちの魚にも定期的使ってますから、その点でも信用してもらっています」。
このほか、FLY MIXはよく沈んでしまうという声を耳にすることもあるんですが。「全然心配していません。よほどの偏食志向の魚でない限り、そのうち必ず食べてくれますからそれに、適度な硬さがあるせいか水中で解けだして水質を汚すこともないので、メンテが楽だというお客さんもいます」。発売からもうすぐ1年。キャンペーンなどで認知度も高まり、FLY MIXの愛用者は着実に増えています。
◆画伯か変態か紙一重
おお、これまた刺激的な内容の手書きPOPが(笑)。この字どこかで見たことあると思いきや、入口に貼ってあった「撮影禁止」と同一人物の筆跡。そしてこのフロア、数段上ると爬虫類・昆虫コーナーにダイレクトアクセスしていたとは気付きませんでした。
あちこちにレプや昆虫がいるジャングルにも似た、何ともカオスな空間(笑)。それぞれのコーナーには、例の個性あふれる書体で色々書かれています。
ん?なんじゃこれは(笑)
ん?「おっさん平ちゃん」って?しかもこの道20年とはベテランじゃないですか。しかも全身全霊で何をどう描いてるのでしょうか、俄然気になってきました(笑)
この個性のかたまりみたいなスタッフこそ、爬虫類のコーナーを担当する平田篤慶さん。その道では結構有名で、「日本でもトップクラスなんですよ~、ワッハッハ!」って、自分で言うな(笑)!でもそのくらい自分なりに爬虫類を研究してきた努力家なんです。たった数分前に出会ったばかりなのに、なぜか意気投合。これはヘタすると、あたりが真っ暗になるまでとことん話し込んでしまいそうな危険な香りが(笑)
平田さんと話をし始めると、まわりのレプたちが一斉にゴソゴソし始めて興味深そうにこっちを見ています。ん~、この不穏な空気は一体(笑)
まず驚いたのは、平田さんが描く鉛筆画。え、これ本当に鉛筆だけで?6Hから6Bまで12種類の芯を使い分けた、まるでモノクロ実写のような出来ばえ。これは恐れ入りました。今日から平田画伯と呼ばせていただきます(笑)
またレプが一匹、こっち向いてます。まるで「ほらね~、平田画伯ってすごいだろ~?」と言わんばかりに(笑)
なんでまた鉛筆画を?「うちに中2になる息子がいるんですが、この子があちこちの学習塾に通っていて、もっともっと稼がないといけないんですよ~」とちょっと意味不明な理由で描き始めたのだそう。ということはすべて商品。1枚いくらするのか聞くのを忘れてしまいましたが、とりあえず店内POPだけでは飽きたらず鉛筆画に走ったみたいです。「夕べもね、描き始めてしまうと徹夜同然になってしまいましてね。寝不足なんですよ~」って、知らんがな(笑)!
平田画伯お気に入りの自信作を披露してもらいました。このリアルなタッチ、すごすぎです。実際のサイズはA4で、ショップへ行けば見せてもらえるのでぜひ。
◆イグアナだって嫉妬する!?
鉛筆画の話題が落ち着いたと思ったら、今度は爬虫類の嫉妬論について(笑)。平田画伯によると、そこそこ頭の大きいイグアナなどは脳の働きも活発で、人に懐くし嫉妬もするらしい、と。え、それってすごい発見じゃないですか!もしかしたら、これまでの常識を覆すことになるかも知れませんよ!と思いきや、3匹いるうちのオスイグアナに愛犬のように話しかけ始めました。「よしよし、いつもいい子だね~」と言いながら頭ナデナデ。さらにあろうことか、チューまで大サービス(笑)。これには驚きました。
「ほらほら、ぼくがわざとあの子を可愛がるもんだから、こっちの子が嫉妬してるんですよ~」と言われるままに対角線上のケースにいる別のイグアナをみると、確かにヤキモチを焼いているような鋭い目つきでこっちを見ている様子が何とも切ない(笑)
「う~ん、ごめんごめん。お前も可愛いから安心するんだよ~」と言いながら頭ナデナデ、鼓膜下大型鱗グニュグニュ。すると、気持ちよさげにじわりじわりと目を細めていくではありませんか!えー、これって本当に喜んでいるの!?
すっかり目をつぶってしまったところへ、「キワメテ!水族館」の女性スタッフも頭ナデナデに便乗。とっても安心しているかのようなイグアナが愛おしく、とっても印象的でした。こんなセクシーな表情をしたイグアナ、見たことない(笑)!
さらに平田画伯の暴走は続きます(笑)。今度は、オスとオスのケースの間にいるメスのイグアナを見て何やらブツブツと。「本当はこの子もナデナデしてほしいくせに、プライドが高いんですよ~。ほらほら、“私は別にナデナデなんかしてほしくないわよ”という表情してるでしょ?ね、本音とは違う態度に出るあたり、気の強い女性と一緒なんですよ~」と“彼女”を分析。すると、平田画伯が手をさしのべるとこれまた恍惚の表情。まさしくツンデレのイグアナ。どこまで本当なのかわかりませんが、平田マジックに完全に持っていかれてしまいました(笑)
◆人に厳しいのは生きものが大切だから
後ろ髪を引かれる思いで、爬虫類コーナーをあとに。おっと、ここにも注意喚起を促す手書きPOPがありました。そういえば、さっきも「ここは動物園ではありません」と描かれたアテンションメッセージがありましたが、実に的を射ていて印象的でした。
やっぱりこのお店でも色々ある?「最近どうかしてるんですよね、本当に。この間も、親が1階で魚を見ているあいだじゅう、暇を持て余した子どもたちがここ(2階)で走り回ってるんですよ。託児所じゃあるまいし(笑)」と眉をひそめる女性スタッフ。それでも、「こけたりしてケガしないように気をつけていないといけなくて」。そうですよね、何かあったら結局お店のせいにされちゃう世の中ですから、困ったものです。
関西のショップでも、水槽をバンバン叩く子どもが多いと聞きます。なぜしてはいけないのか、それをまず親が教えていない。だから、注意すると逆に睨まれることのほうが多いと嘆くショップスタッフも結構多いようです。「私の場合はハッキリ言います。結構きつく言います。買わないのなら帰ってくれ、とも」と蒔田オーナー。お客さんだからなかなか注意しづらいとは思いますが、その前に守るべきマナーが守れないことに問題があるような気がします。それを教えるのは大人の仕事ですから。
すべては魚のため、生きもののため。スタッフのみなさんすべてが、生きものに深い愛情を持っているから。これはすべてのショップにいえることで、長いアクア経験の中で不幸にも魚を死なせたりした辛い過去があるから。水槽を叩かない、許可なく写真を撮らない、店内を走り回らない。これらの根底にあるのは、生きものを守りたい、生きものを大切にしたいという気持ちの表れにほかなりません。
通販よりも対面販売。ネットで簡単にモノが買える時代ではありますが、人とじかに接して地域密着型ショップでありたいと願うスタッフの佐藤さん。自分たちが育ててきた生きものだから、本当に欲しいと思う人に心を込めて売っていきたいから。
こんなスタッフに囲まれて日々くらしている生きものたち。その姿は、まさしく店名の通りViViD(いきいきとしているさま)そのものなのでしょう。
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