「楽しくてタメになる本をつくる」がモットーの出版社・ジービーの「めぐりシリーズ」。最新版は、全国の水族館や動物園を紹介した「水族館めぐり」と「動物めぐり」の2冊。ともに発売直後から出足好調で、すでに重版の勢い。噂を聞きつけて「キワメテ!水族館」も本書を手にとってみましたが、ああこれならウケるはずだと大いにナットクすることばかり。単なる観光スポットのガイドブックにはない、人間味あふれる、、いや動物味あふれるほのぼのとあったかい内容の一部をご紹介します。
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◆コロナ禍で動物たちは一体
そういえば、去年2月に東山動植物園「世界のメダカ館」(愛知県)を取材したあと、国内に緊急事態宣言が発出され施設そのものが長期間休館を余儀なくされました。その時にふと思ったんですよね、「休館は仕方ないとしても、生きものたちは一体どうしているんだろう?」と。
奈良公園では外国人観光客が激減したことで鹿せんべいをもらえる回数も減り、今まで見られなかった場所で鹿の群れが目撃されたことも。JR奈良駅でもごらんの通り。雨降りの夕方にもかかわらずこんな姿が目撃されたのは、ちょっとした異変でもありました。アクアも動物たちも、人間社会の環境の変化がそのまま反映される切ない世界。コロナによる影響は、観光地でも同じでした。
前置きが長くなりました。「水族館めぐり」は去年のコロナ禍真っ只中に制作された渾身の一冊。制作そのものは1月からスタートしたものの、撮影などは緊急事態宣言後はほとんどアウト。それでも感染防止に最新の注意を払いつつ、水族館協力のもと慎重に撮影を敢行。その気持ち、痛いほどわかります。去年の春は「キワメテ!水族館」スタッフもそうでしたから。そんな去年の苦難を思い出しながら本書を読み進めていくと、共感できるところが多々。水族館側が趣旨をしっかり理解してくれたんだろうなとか、この撮影は特に大変だっただろうなとか。反面、こんな時期だったからこそ得られた情報や、思わぬシャッターチャンスでゲットできた写真も少なくなかったでしょう。
◆主役は施設ではなく動物
本書に紹介されている水族館は、北海道から沖縄まで全国40の水族館。おそらく誰もが知ってるあの水族館やこの水族館。といっても、あくまで動物重視の編集。施設などの紹介はほとんどありません。この斬新な切り口にまずはあっぱれ(笑)。あれも載せたい&これも書きたいと、カメラマンやライターなら誰もが思うことですが、限られた誌面の中でよくぞここまで思い切ったものだと。ああ、欲張り丸出しの「キワメテ!水族館」はそれができないんですよね~(笑)
それでは本書の一部をちょい見せしましょう。おたる水族館(北海道)のペンギンたち。どの水族館でもペンギンたちは大人気。でも、左ページの上のペンギンのようなユニークな表情を見たことのある人は少ないはず。そうなんです、巨大水槽で泳ぐ魚の群れやイルカショーなどの華やかな表舞台のシーンだけが水族館ではありません。普段見ることのできないバックヤードなどを通じて、コロナ禍だからこそ撮影できたとっておきのナイスショットにも注目を。
クロマグロの郡泳が見られるのは葛西臨海水族園(東京都)だけ。迫力満点。そもそも外洋性の魚を飼育すること自体難しいんですよね。魚なんてどれも同じようなもの、なんて思ってません(笑)?魚類といえど、生態に関する各種データもてんこ盛り。実は、こうした取材では生体のチェックが一番大事なんです。見た目は似ていても、アクアの世界では学名はもちろん原産国やオスメスの区別などとっても複雑。地味な作業ではありますが、このチェックがあってこそ。編集スタッフの苦心がよ~くわかります(笑)
え、あの滋賀県立琵琶湖博物館(滋賀県)にアザラシがいたの!?なぜかは本書を読めばわかります(笑)。そんなオドロキエピソードもちょこっと。どちらかというと文章は少なめ。本書といえど三密に気をつけて、ソーシャルディスタンス(笑)。でも写真は大きくダイナミックに。アクセルとブレーキを使い分けての誌面構成となりました(笑)このほか、独自に取材したユニークネタも随所に盛り込まれ、ビジュアル重視でありながら図鑑的な要素も含まれています。この動物に会ってみたい!そんな気持ちにさせる「今すぐ水族館に行きたくなる本」に仕上がっています。
◆動物たちの生きた記録
新屋島水族館(香川県)のアメリカマナティーは絶滅危惧種に指定。こう見えてもとっても臆病な性格なのだそう。反面、開館前には必ず水面まで近づいて飼育スタッフにあいさつをするという、これまた見た目と違って意外と律儀(笑)。マナティーに限らず、なかなか知られていない習性をたくさん持っている動物たち。ある飼育スタッフによると、来場者に会えずどこか寂しげで元気がなかったという動物や、いつもとは違った行動をした動物もいたそうです。来場者のいないコロナ禍で、違和感や不安を覚えた動物が少なくなかったのでしょう。
たまたまかも知れませんが、本書で紹介されているホッキョクグマ・豪太(男鹿水族館/秋田県)は、なぜか真冬の水温の低いプールが苦手なのだとか。これは意外でした。北極出身やのに寒いのダメってナンデヤネン(笑)!そんな状況下でも頑張る飼育スタッフはもっと大変。彼らがモチベーションを切らさなかったのは、何よりも命がかかっているから。日々動物たちに関わることで、喜びと哀しみにリアルに寄り添うことが使命と信じているから。本書は全編を通して楽しい誌面ではありますが、コロナ禍における動物たちのまさに生きた記録でもあるのです。
また、日本全国の動物園をかわいい動物写真中心で紹介した「動物園めぐり」も。「水族館めぐり」と同じコンセプトで制作に取り組み、こちらも飼育スタッフにしか見せない動物達の表情も数多く掲載。「水族館めぐり」だけでいいやと思っていても、必ず欲しくなる1冊。だったら今のうちに2冊ともサッサと買っちゃいな(笑)!随所に登場するイラストも可愛いですよ~。
◆予習して館内の接触時間を軽減
いかがでしたでしょうか。施設ではなく、動物たちをとことん追いかけたユニークな2冊。まだまだ収束の兆しは見えないコロナ禍ではありますが、まずはこの2冊でしっかり予習をしてから水族館や動物園へお出かけを。そうやって下準備をしてお出かけすれば、施設のスタッフたちとの接触も極力少なく済み、感染拡大防止に役立つこと間違いなし(笑)!A5オールカラー。約200ページ。ジービーより1,680円(+税)で好評発売中。