わりと「生体の数が多い」、しかも「珍種も多い」、そして「安い」。
アクアの老舗を知る人は、口を揃えてこう言います。
51年前、JR茨木駅近くで開業。
その後大型SCにステップアップし、ついには念願の大型路面店へ。
地元に愛されて続けてきた同店ですが、人知れずドラマがありました。
◆女性目線の華やかな店内
大阪モノレールの沢良宜駅から歩いて10分たらず。府道中央環状線沿いに、ブルーカラーの建物がありました。便利な幹線道路を利用できるため、車で来店する人がほとんどだそうですが、公共交通利用でも意外と近いんです。
店舗をこの場所に移ってから、はや10数年。スタイリッシュなロゴマークではありますが、店名そのものは変わらず。いや、これでいいんです。伝統は守らないと。チャラチャラしたカタカナになんかに改名しないでくださいね(笑)
店内に入ると、正面の水槽で金魚たちがお出迎え。ひらひら優雅に泳いでいます。
店内を見渡すと、こんなに明るい!アクア用品が所狭しとぎっしり詰まっているのかと思いきや、ヨユーの空間演出。以前はこんなきれいじゃなかったなーと驚いているリピーターさんも多いそうです(笑)
ポップな音楽が店内に流れ、雰囲気はまるで花屋さんのような雑貨店のような。アクアというと、どうしても男っぽいイメージがあるのでこれは意外でした。
店内POPなんかも全然男っぽくない(笑)
店内のそこかしこにも、アクアショップらしからぬやさしい雰囲気が。こんな雰囲気なお店なら、女性でも気軽に入れそうです。いやはや、取材の前と全然イメージが違っていました。
◆急逝したお父様の後を継いで
お店を任されているのは、久保田仁美(ひとみ)さん。そうなんです、その店名からは想像もできない(失礼!)、女性目線のアクアショップだったんです!なるほど、だからこの店舗イメージ。男くさくないイメージ、とってもイケてます。その温和なキャラクターは、とてもアクアショップを仕切っているとは思えません。いやいや、これ誉め言葉ですから(笑)!
ところが、取材を進めているうちに思わぬドラマがありました。
――まさか最初からオーナーではありませんよね(笑)?
「もちろんそんな年ではありません(笑)。私が生まれる前は、両親が経営していたんです。始めたのは母でしたが、その後父が脱サラして経営者となりました。父も母もアクアのことをさほど知らずに始めたのに、ソードテールやエンゼルフィッシュを中心に結構売れてたみたいですよ」
――このあたりだと知らないアクアユーザーはいませんよね。
「おかげさまで多くのお客様に支えてきていただきました。店が忙しすぎて、私自身は子どものころはどこへも遊びに連れて行ってもらえず、つまらなかったですけどね(笑)」
――ご両親のお店をなぜ仁美さんが?
「実は4年前に突然父が他界したんです。急きょオーナーとなった母も、会社勤めをしていた私も、あまりにも急なことだったのでパニックになってしまいました。これからどうしようか、と」
――お父様はきっと無念だったでしょうね。
「親戚に大反対されながら、やっと大きな路面店を持てたことで俄然やる気になっていましたから。リピーターのお客様が数多くいらっしゃったこともあり、さあこれからという時でしたから」
――それで亡きお父様の後を継ごうと。
「ここまでこれたのは、やっぱり父のおかげですからね。もうやるしかないと思いました。実オーナーは母ですが、体力的にも気力的に難しかったので、長年勤めてきた会社を辞めて店の経営に専念しようと決心したんです」
――観賞魚の知識は?
「いえいえ、全然(笑)。家でも飼った経験がありませんでしたし、学生時代に少しだけ店でアルバイトした程度でしたから。スタッフにも仕入れ先にも、そしてお客様にもずいぶん助けていただきました」
――よくそこまで決心されましたね。
「今思えば無謀でした(笑)。生前は父がほとんど一人でやっていたので、後継者の話もまったくありませんでした。でもくじけなくてよかったと思います。当時は本当に大変でしたけど、母もようやく元気を取り戻して、“あの時は後を継ぐのは反対やってんで!”などと冗談が言えるようにまでなりましたから(笑)」
女性目線で彩られた華やかな雰囲気のお店の裏側で、こんなにも辛いドラマがあったとは。化粧品メーカーからアクアの世界への大転身。アクアショップとしては珍しい女性オーナー。以前は販促に携わっていたこともあり、総括的なマネジメントと店内ディスプレイは仁美さんが手がけ、生体販売は川原 穣(ゆたか)さん(現店長)が受け持ち、再スタートを切ったのです。
◆珍魚がいっぱいの「小さな水族館」
仁美さんの女性ならではの目線とセンスがうかがえる用品コーナー、そしてこれからご紹介する川原さんが担当する生体コーナー。そのギャップがあまりにもユニークすぎて印象的です。女性でも誰でも入りやすくしたとせっかく仁美さんが工夫したのに、かえって入りにくくなったというマニアックなお客さんもいたりなんかしています(笑)
「あまり近くから撮らないでくださいよー」とシャイな川原さん。ここでも仁美さんとは違うギャップが(笑)。この道10年以上。やっぱりアクアが好きだったから?「いえいえ、当初アルバイトだった時に初めてアクアに携わったんです」って、、、えー、初代オーナーといい現オーナーといい、そんな人ばっかり(笑)?
生体コーナーは、通称“水槽温室”。用品コーナーとはまったく違う異次元の世界。古代魚が多く、まるでタイムスリップしたかのよう。マニアックな雰囲気もプンプン(笑)
入ってすぐのところは、川原さんのお気に入りゾーン。「家では飼っていないので、ここでアクア楽しんでいます」って、売り物なのに(笑)。でも、自分の持ち物のように飼育するからこそ、質のいい生体販売につながっているのでしょう。
評判通り、ユニークな魚がいっぱいいます。珍しい生体といえば、やっぱり体格が大きい古代魚。これはボルネオ産のぺヤング。産地によって微妙に色や模様が違うそうです。「もうこの子一匹だけなんですけど、売れなくてもいいんです(笑)」。まるでわが子。川原さんのよほどのお気に入りのようです。
さまざまな種類のバルブが元気に泳いでいます。動きが速すぎて速すぎて(笑)
バルブに混じって泳いでいるボニーリップバルブ(目が赤い魚)。底のほうを好んで泳ぐコイのなかまです。
インド産のマスカラバルブ。目元と尾が黒いのが特徴で、成長するにつれてほほのあたりが青くなってくるのだそう。
インド産のゴールデントールマラバリカス。お客さんの間で密かな人気があり、今ごろはすでに売れてしまっている可能性も。
プロトプテルス・アンフィビウスは「生きた化石」といわれる肺魚のなかま。4本の手足を器用に動かして底部を歩き回り、何より立派なヒゲが特徴です。
全身に散らばる模様が特徴のクロコダイルスティングレイ。ご存じエイのなかまですが淡水です。
遊泳性が高く比較的混泳させやすいチャンナオルナティピンニス。あー、舌かみそう(笑)
タイのバンコク近郊の海に面したまちにちなんで名付けられた、ワイルドベタのマハチャイ。
「幻のフグ」とも呼ばれている大型淡水フグのテトラオドン・プストラータス。ナイジェリア産。「可愛いでしょ~?」と川原さん。どうやったらこんなに珍しい魚ばかり仕入れられるの?「企業秘密に決まってるじゃないですか(笑)!」(川原さん)
人気のファイヤーバックスネークヘッド。まるで泳ぐ化石です。
ちょっと色っぽい紅白ソードと、新潟産のニシキゴイ。ほかにも古代魚やお客さんがブリーディングした稚魚など多数。いやあ、見るだけでも価値ありです。
まさに「小さな水族館」。看板に偽りなし。観るだけでもどうぞという看板も女性らしい心使い。特に子どもたちの好奇心は、未来のアクアリストにつながっていますからね。でもマナーだけは守ってほしい。ところ構わず大声で叫んだり走り回ったり、水槽をバンバン叩いたり、ひどいのになると水槽にお菓子を放り込んだりする子どももいると、よそで聞いたことがあります。そんな子どもに限って親は放ったらかし。元気がいいのと行儀が悪いのとは違います!スミマセン、ついつい興奮してしまいました(笑)
珍魚紹介はこのくらいに。あとは来店してからのお楽しみということで。なお、同店のホームページやFacebookでは、きめ細かく入荷情報が掲載されているので、ぜひ参考にしてみてくださいね。もちろん通信販売も行っていますので、なかなかショップに行けないという他府県の人は利用してみてください。
◆市販の水槽でスタイリッシュなアクアライフの提案を
再び用品コーナーへ。小物から水槽まで、よくみると結構品揃えが豊富です。ハデハデな店内POPもなく、それでいてカテゴリー別にも見やすいディスプレイが印象的です。
おお~、KOTOBUKIの市販水槽としては最も大きい大型水槽もドドーンとありました。
かと思えば、今人気のコンパクト水槽も。
ガラスケースに収められている薬品関係は、施錠して厳重に保管してあります。みなさんも見習いましょうね(笑)
レジ横にはロシアリクガメの“福ちゃん”が。体長は30㎝くらいでしょうか、すぐ近くの路上に放置されていたのを救ってきたそうです。心ない人ってどこにでもいますね。今はお店のペットであり、福を呼ぶ縁起のいいカメさんでもあります。今後は魚だけでなくカメも取り扱っていくのだそう。川原さんは爬虫類を推しているそうですが(笑)
仁美さんが実質的なオーナーに落ち着いてから最初に手がけたことは、まず店内を明るくすることでした。まるでスイーツカフェのようなアースカラーで統一されています。以前がどんな雰囲気だったかは知りませんが、集客に大きく貢献したことは間違いありません。
用品コーナーにもレイアウト水槽が色々あります。メンテが行き届いていて、どの水槽もきれいです。随所にみられる小物も、女性ならでは。次に手がけたいことは、「市販されている水槽をもっと使ってレイアウトして、現実に即した飼育状況の水槽をたくさんお客様に見ていただきたいんです。それをきっかけに、こんな水槽がほしい!アクアリウムをやってみたい!と思ってくださるお客様がいればうれしいです」。生体メインの“水槽温室”とは一線を画した、女性や子どもでも親しめるスタイリッシュなアクアの提案。実現するのが楽しみです。
お父様の突然の訃報から4年。たった数時間のインタビューでは語れない、多くのジレンマや葛藤があったに違いありません。窮地に追い込まれたプレッシャーは仁美さんにしかわかりません。お父様が残したものがあまりにも大きすぎたから、無理もありません。
経営の側面だけでなく、生体の仕入れのために東奔西走するのも仁美さんの仕事。女性オーナーとしての仁美さんのことも、業界では徐々に浸透してきました。結果はまだまだ先のことですよと謙虚に仰いますが、かなり“仁美カラー”は浸透しています。
オーナーとしての挑戦は始まったばかり。温和な話し方と、人懐こい笑顔と。アクアショップのオーナーにしておくのはもったいないと思う、お節介な男目線をどうか許してくださいね(笑)
★茨木観魚園のホームページはこちら